仁左衛門様の目が「いっちゃって」ました

片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候
片岡仁左衛門の義経千本桜

2月歌舞伎座公演・第2部「義経千本桜」を観てきました。
役が違うので当然のことですが、昨年の「桜姫東文章」「四谷怪談」とも全く違う魅力が満載の舞台でした。

まずは前半「海渡屋」の場。
船問屋「渡海屋」に主人の銀平が帰ってきます。花道に現れた仁左衛門様のオーラが歌舞伎座を一瞬にして完全に支配します。感嘆のため息と共に期待の拍手が劇場内に響きます。

これが「千両役者」というものなのでしょう。永遠に見つめていたいと思う唯一無二のお方です。

渡海屋の主人は実は壇ノ浦で入水した平知盛であり、女房は典侍の局(すけのつぼね)、二人の娘とされていたのは安徳帝。3人は2年あまりを家族として過ごし、生き残った者たちと平家再興のチャンスをうかがっているという、史実とは違う物語です。

宿敵としていた義経一行が船待ちをしていたため、義経を討つ絶好の機会と、覚悟の死に装束になって現れる場面。私の目の前、正面に誇り高き知盛が現れました。

後半「大物浦」(だいもつのうら)の場。
片岡仁左衛門の義経千本桜

義経の返り討ちに遭い、瀕死の知盛。何本も矢が刺さり、血だらけでヨロヨロと花道に現れます。
仁左衛門様の目は瀕死の演技ですでに「いっちゃって」ました。仁左衛門様の芝居は数えきれないくらい観てきましたが、こんな目は初めてでした。

もうここからは目が離せません。
のどの渇きに我慢できず、刺さった矢を自ら抜き、矢に付いた自分の血を舐める狂気のようなシーン。ロックバンド「KISS」のジーン・シモンズのようでした。

それでも、義経に保護された安徳帝からの言葉を聞く時には、主君を仰ぐ気持ちと我が子としての2年間がないまぜになり、一瞬正気に戻ったような慈愛に満ちた表情になります。その細やかな感情の変化も目の光ひとつで表現していて見事でした。

武士の最後の誇りとばかり、二度と浮き上がることがないよう大きな碇と自らを縄に括り付けています。この間、歌舞伎座は水を打ったような静けさで、仁左衛門の動きのひとつひとつを追っています。
最後に知盛が大海原に舞い落ちていき、拍手喝采。
「ふぅ~」と劇場全体が息をついたように感じました。

とにかく体力勝負です。重い衣装を着て渾身の芝居。額や頬にも汗が流れています。血を舐めるシーンがあったため、口の中も真っ赤です。敗北を認めて自らを海に沈める武士の誇りを気高く表現しました。
圧巻。。。の一言でした。緊張が続いていたので終演後はひどく疲れました。

余談ですが

①残念だったのは、時蔵さんの義経では年を取りすぎていますよね?気になってそこは集中できませんでした。
②久しぶりに見た左團次さんは弁慶でした。お元気そうで何よりです。最後に飛び六法するのかと心配でしたが、静かに去って行ったのでホッとしました。
③安徳帝役の小川大晴君が大きな声で立派でした。長時間じっとしていて偉かったです。
④歌舞伎座の外ですっごくカワイイ女の子と着物美人の親子に会いました。通り過ぎた時に「お父様の踊り見ていく?」とお母さんが聞いていたので、梅枝さんの奥様とお嬢さんだったのでは?と思いました。メチャメチャかわいい女の子でした。

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