坂東玉三郎の「男」

歌舞伎「桜姫東文章」
私は片岡仁左衛門LOVEです。歌舞伎を見始めてからずっと変わりません。高齢になってなお、美しさで魅了する稀有な役者です。

共演者のひとり、いや、ゴールデンコンビの坂東玉三郎にも畏敬の念を覚えます。
先日、36年ぶりにこの二人の「桜姫東文章」を見ることができ、大感激★★★★
仁左衛門にハートをわし掴みされ、玉三郎にため息をついてきました。

坂東玉三郎
1回では満足できそうもないため、2週間後のチケットも取ってあったのですが、緊急事態宣言を受け、中止に。。。
悔しくて、悲しくて涙が出ましたが、中止になった期間のチケットで1回だけ見ようとしていた方が大多数でしょうから、一度でも見ることができて良かったと思うことにしました。

先日、友人に玉三郎の年齢を質問されました。ただただ美しさに満足していて、あまり考えたことがなかったため、調べてみてびっくりしました。71歳の玉三郎が17歳の桜姫を演じていたのでした。年齢?そんなものはとっくに超越した存在ですね。
坂東玉三郎
歌舞伎座で初めて見た時も、1984年に新橋演舞場で三島由紀夫原作「黒蜥蜴」を見た時も、そして今も玉三郎は玉三郎という存在のままです。
でも、冷静になってみると、見に行く一つ一つの舞台が一期一会、最後かもしれないと思うようになりました。仁左衛門の舞台にしても同じ思いです。

玉三郎本人にもその想いがあるのでしょう。女形として脂の乗りつつある中村七之助に演技指導する姿をドキュメンタリー番組などで見ると感じます。
傘を差した「鷺娘」の写真。目線、首の角度、指の曲げ具合、膝の位置、つま先の見え方。すべてが美しく見えるため、鷺娘の心情を完璧に表現するために計算しつくしたものです。
これを指導してもらえる七之助の喜びとプレッシャーはどれほどのものでしょうか?
二人で演じた「藤娘」でもたくさん指導を受けたことでしょう。

坂東玉三郎と中村七之助
現代劇の衣裳を海外に買い付けに行っているシーンをテレビ番組で見たことがあります。
布地はもちろん、アンティークレースを吟味する姿、その知識の深さは、扱っているものが女性用のものでも、見極める緻密な目が「男」であり、「職人」そのものでした。

ヨーロッパでは熟練した職人や芸術などの分野で特に秀でた人を「巨匠」にあたる言葉で「マエストロ」(イタリア語)、「マイスター」(ドイツ語)などと呼びます。
ご存じのように坂東玉三郎はすでに日本では最高ランクの人間国宝の指定を受けていますが、私にとってあまりしっくりこないタイトルです。玉三郎の究極を求める仕事を見るたび、私は心の中で勝手に「マエストロ玉さん」と呼んでいます。

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