添乗員のグチ⑰忘れてあげません

空港のチェックインで

困っている女性のイラスト
今は国際線ではツアーでも個人でチェックインすることがほとんどですが、まだ添乗員が団体チェックインをしていた頃の話です。

空港のカウンターに行くと「申し訳ありませんが本日満席で予定の席がご用意できません」と言われました。「え!困ります。予約の確認はできているはずです」と私。

するとスタッフがニッコリ笑って「皆様全員、ビジネスクラスになってしまったんですけれど、よろしいですか?」と言ってきました。そうです、たまたま10人の少人数のツアーだったおかげで、丁度ビジネスクラスの空席に収まったようだったのです。

ランクアップには理由が

理由はもうひとつあります。その便がシカゴ行きだったことです。シカゴ便はビジネスクラスの席が通常よりも多い座席配列になっているのです。機内の座席配列図を参考までにアップしましたが、私が乗った当時はさらに3列分くらいビジネスクラスの席が多く、その分エコノミークラスの席が少なかったと記憶しています。
飛行機の座席配列図実際にいただいた搭乗券は本来予約から余った席でしたので、通路を挟んで並んでいれば良い方で、2席で隣り合った並びの席はありませんでした。

さて、お客様が受付カウンターにやってくる時間になりました。皆さま2人組での参加でしたので事情を話してくじ引きにしました。斜めで前後の方、縦に前後に3列も離れてしまう方もありましたが、皆様ニコニコでした。残念ながら、帰りは普通のエコノミークラスでしたが、皆様ラッキーだったと喜んでくださいました。

トラウマが甦りました

喜んでいるツアー参加者を前に、私は前の年の最悪だったフライトのことを思い出していました。ツアーでアメリカの国内線に乗った時のこと。西海岸から東海岸でしたので4時間位のフライトでした。ほとんどのお客様の席が同行者と離れてしまったのです。

満席で変更できなかったので、お詫びをし、理解を求めました。皆さん「寝て行くから気にしないで」と言ってくださいましたが、1組のご夫婦が怒っていました。
叱責をする人のイラスト

飛行機に乗ってからも私を通路に呼び寄せ「何とかしろ!」と怒鳴っていました。お客様の隣の席はアメリカ人の親子連れのようでしたから、替わってもらえそうにありません。奥様の席の隣もカップルでしたから頼めそうにありませんでした。CAに空席を探してもらうよう依頼もしましたが、満席なのでどうにもなりませんでした。

この間1時間以上もお客様は怒鳴ったり、嫌味を言ったりしながら私を席に帰らせようとはしませんでした。「お前の会社なんかもう2度と使ってやらないからな!!!」と言われましたが、私は心の中で「2度と来てくれなくて結構です!!!!」悪態をついていました。

お客様は身勝手な神様です

空席の多い機内
さて、このお客様。帰国便のフライトは席がガラガラに開いていたので、ご夫婦仲良く座ることができました。ラブラブでご機嫌かと思いきや、奥様があいている席に移動して横になっていました。ご主人がいる元の席から10列以上離れています。帰国便でお疲れでしょうから、普段なら気にも留めないことです。

しかし私は、「あれだけ隣になれなかったことで添乗員を叱責しておきながら、離れて座るとはどういう神経ですか?」と思ってしまいました。せめて同じ列や前後の席ならかわいいと思えたのに。所詮、人間は身勝手なものですね。

この翌年、空港でご主人だけを見かけました。相変わらず、ツアーをご利用いただいている様子でした。私は「○○様、いつもご利用いただきありがとうございます」と笑顔で挨拶をしました。忘れもしない名前ですから。

まさかの再会

さらにその年の冬、私が担当するツアーの名簿にお客様の名前がありました。ツアーの責任者に、以前にあったことを話し、「今更変更できないので行きますけれど、またクレームかもしれません。でも一所懸命やってみます」と伝えました。出発前のご挨拶の電話から「またご一緒ですね。ありがとうございます」と精一杯明るい声で話しましたが、お客様もバツが悪そうな反応でした。
得意気な顔の男性のイラスト

その時の同じツアーのお客様に「○○様は世界中旅しているので、詳しく参考になるお話が聞けると思いますよ」と紹介してみました。その一言が効いたようで、旅行中はちょっとしたスターになれた様子でした。

この時は問題なくツアーを終えましたが、このお客様に最後に言われた言葉があります。「あの時のことは忘れてあげるよ」と。私は中途半端な笑顔でお別れの挨拶をしました。

ひとりになってから心の中で叫びました。

「私は一生忘れません!」

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