ステキなお客様⑯初添乗から亡くなるまで~その2~

前回の投稿ステキなお客様⑯初添乗から亡くなるまで~その1~の続きです。

お客様からのリクエスト

戸惑っている人のイラスト
私の初添乗から半年余りたったある日、ツアーを受けている旅行会社から次のようなメッセージが来ました。「A様から添乗員のリクエストが来ています」と。これは珍しいことではないのですが、その後に続いた言葉に大変驚きました。「○○添乗員(私のこと)でなければキャンセルすると言っていますが、添乗していただけますか?大夫ですか?」と。

やっと海外添乗キャリア半年の私は「受けるも受けないもありません。頑張ります。ありがとうございます。」と返事をしました。

何が気に入ったのかは疑問でしたが、私が添乗員でなければキャンセルするというAさんからのリクエストは強烈でした。社内でも話題になり、どうしてそんなに気に入られちゃったの?と色々な人から質問されました。

電話する老婦人のイラスト
Aさんは何者?

Aさんは海外のインテリアを輸入する仕事をしており、ある国にはひんぱんに行っていたようで、前回空港で外資系のエアラインの方があいさつに来たのもそのせいでした。すでにビジネスは息子さんが受け継いでおり、悠々自適という感じの方でした。

フリー素材からイラストを探し、一番イメージに近いものを載せてみましたが、この10倍くらい迫力のある方です。姉御肌で面倒見の良い方なので、必死に添乗している私を娘のように感じたのかもしれません。

2回目のツアーにご一緒してからは、私もすっかりAさんに飼い慣らされてしまいました。個人的にも連絡を取り合うようになりました。ご自宅に泊まりに行ったり、高いお寿司屋さんでごちそうになったり、当時お付き合いしていた人とのことも打ち明けたりしていました。

人生最後の旅行になりました

「私が添乗員でなければキャンセル」と何度もリクエストをいただき、ツアーでもあちらこちらに一緒に出かけました。ある年の秋には、100万円近くかかる高額ツアーにも参加していただき、5つ星ホテルで楽しく食事をしたこともありました。

その数か月後、Aさんのお嫁さんから電話がありました。「義母が亡くなりました。最後まであなたとまた旅行に行きたいと言っていました。ありがとうございました」と。私はしばらく呆然としてしまいました。ひんぱんに会っていた訳ではなかったのですが、前回の旅行からはそう言えば時間が経っていました。
スイスの観光列車の写真

確かに前回の旅行では体力が落ちていた様子でしたが、年齢的に仕方がないと考えていました。実は肺がんを患っていて、もう長くないことは自分でわかっていたというのです。最後の旅行として高額なツアーを選んでくれたのも、今になって思えば、私を添乗員としてステップアップさせるためだったように思います。

いつも一緒に

私が添乗員になってから最初の数年間のお付き合いでしたが、今までで一番強烈な印象を持ったお客様ですし、一番感謝しているお客様です。今でも私がいつも持ち歩いている手帳には、Aさんと撮った写真が3枚入っています。1枚はAさん宅で撮ったもの、2枚は最後になった旅行中に撮ったものです。いつも、どこにでも一緒に旅行しているつもりです。

理不尽に叱られたり、悩むことも多い添乗員という仕事ですが、「Aさんほどの人に認めてもらったのだから大丈夫」と、自分を励ますことも多くあります。この先も一生忘れられないお客様であり、もう一人の母かもしれません。

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