とんでもお客様⑱東京大学‐その1

職業欄に

書類仕事をする女性のイラスト
個人情報保護法が施行される前は、ツアーの参加者名簿にはお客様の住所等はもちろん、職業までも載っていました。現在は、生年月日、電話番号、○○市までの住所、海外ならパスポートの情報までしか載っていません。

職業欄は住所や電話番号と違って、記入しなくても問題はなかったのですが、「無職」「主婦」「会社員」「医師」など、色々な職業が見られました。添乗員としてツアーでお会いする前に「どんな方かな~」と想像するのも当時は楽しいものでした。

ところが、たまに「???」と思ってしまう職業がありました。例えば「元県会議員」「元警察官」などです。「元」とあるからには旅行会社に登録する時点で、すでにその仕事には就いていなかったはずで、職業欄は空欄か無職でも良かったはずです。どうしても、「元」の職業を主張したかったのでしょうか?

元県会議員さんはすでに選挙で負けたのでしょうか?元警察官はすでに退職されたのでしょうか?わざわざ書く必要のない元の職業を主張してくるところに、その方の性格が見えてしまい、先入観を持ってしまいました。

教授のイラスト
わかってますけど。。。

あるツアーのお客様は「元○○大学名誉教授」という職業でした。ということは、すでに退職されているはずです。しかも「名誉」を入れたことにも、こだわりを感じました。

お会いしてみると、ご本人はいたっておっとりした無口な方でしたが、奥様は事あるごとに「主人は」「主人が」と言い、話の中身のほとんどがご主人についてのことでした。

その○○大学は国立大学の中でも極めて難関で知られた学校でしたので、私も興味が湧き「ご専門はどういったものでしたか?」とご本人に聞いてみました。すると奥様が横から急に「主人は○○大学で名誉教授でしたが、東京大学を出ているんですよ!」と言ってきました。

私も「○○大学教授だからその大学の出身」なんて思っていません。東大を出て他の大学で教える人はもちろん沢山いますし、東大教授で東大卒でない人もたくさんいますよね。
老婦人のイラスト

きっと旅行会社への書類は奥様が書いたのだと、この時確信しました。職業は書く必要はありませんでしたが書きたかったのでしょう。奥様本人は何をしていた方かはわかりませんでした。

ずっとご主人の研究を支えてきたのが奥様の人生だったのでしょう。だからこそ「東京大学出身の夫」「大学教授婦人」という肩書だけがきっとこの方の誇りであり、アイデンティティだったのでしょう。

羨ましいような、寂しいような不思議な気持ちになりました。

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