とんでもお客様⑰医師VS弁護士

高級ツアーで

旅行中のカップルのイラスト
あるアジアの国に行く高級ツアーに添乗した時のことです。お客様はご夫婦2組とひとり参加の男性の計5名。現地では日本語ガイドが付いて案内をしてくれるので、どちらかと言えばラクなツアーのはずでした。

ツアーが始まって3日目頃に、あることに気がつきました。5名なので、ランチレストランのテーブルが皆様一緒だったのですが、会話が皆無だったのです。ひとり参加のお客様に様子を確認したところ、ご夫婦2組が目も合わせず全く会話をしないとのことでした。ちなみに1組は医師とその奥様、もう1組は弁護士とその奥様です。

それとなく1組のご夫婦に、「あまり、お話が弾まないようですが、テーブルを分けましょうか?」と聞いてみました。すると「あの人たち、挨拶しても返事もしないんだよ」と怒っています。もう一組のご夫婦にも聞いてみたところ、「何だか感じが悪いので、最初から話す気がなくなった」とのことでした。「どちらが先か」「どちらが悪い」と判ったところで仕方がないので、個々に対応することにしました。10人以上いるようなツアーなら、無視した、挨拶がないと言っても、相手を避ければよいのですが、たった5人では避けようがありませんね。

観光もレストランも

翌日からの食事はすべて2人、2人、1人の3テーブルに分けていただきました。観光は引き続き一緒にしていただきましたが、関係性が判ったので、無理に仲良くしてもらうような対応はやめました。もちろん仲良くしてほしいのですが、それぞれが「いい大人」ですし、旅行期間だけのお付き合いですから、私も割り切ることにしました。

レストランのイメージ
食事のたびに、各テーブルを回って声をかけるのは大変でしたが、たった3テーブルなので無理なことではありません。

1人参加のお客様は、2組のご夫婦の対立の様子を楽しそうに見ています。現地ガイド氏は、すっかり神経をすり減らしているようで、日に日にやつれていきました。

貴金属店で

アジアのツアーでは現地での特産物となる貴金属の店にご案内することがよくあります。この時も店に入り、スタッフの説明を聞いてから買い物タイムとなりました。と言っても民芸品を買うのとは訳が違います。数万円単位から上は数百万円の商品ばかりです。

少ない人数なので、1組づつにスタッフがついて説明していました。ひとり参加のお客様は、早々と隅の椅子に腰かけて出されたお茶を飲んで戦線離脱していました。すると、スタッフから大き目の声が響いてきました。「それは300万円ですけど、10%オフににしましょうね」と。すると、別のスタッフが「お目が高いですね~。これは350万円です。」と声高に言っています。

貴金属店のイメージ
この時店にいたのは、このツアーのお客様だけ。響き渡るスタッフの声をそれぞれが聞きながら、負けたくないのか?買うものの金額が上がっていきました。そのうち500万円という声が聞こえてきたので、さすがに私も口を挟みました。「ご納得の上で高額なものを買っていただくのは良いのですが、大丈夫でしょうか?」と。

この店は旅行会社の指定店ですので、手数料が会社に入ります。同時に現地ガイド氏にも(たぶん)5~10%のキックバックがあるはずです。さっきまで疲れ切っていたガイド氏が、何やらすっかり元気です。このまま2組が高額商品を買うことになっても良いのですが、気になるのは、向こうより高いものを買おうと競っているように見えたことです。

弁護士と医師。お金はあるのでしょうが、この旅行で競争心で買ったものが嫌な思い出になってほしくはありませんでした。双方が冷静になってくれて、数十万円のペンダントやブローチに落ち着いてくれました。お店の方、ガイドさんにはがっかりさせてしまいました。申し訳なかったです。

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