パスポートを失くした人々⑥みんなで喜んだのに

盗難多発地帯で

ヨーロッパの広場の写真
ある国の中心広場で少々自由時間をとることがあります。街並みも素敵だし、おしゃれな専門店の並ぶアーケードや、小さいながらスーパーもあります。

気をつけてほしいのはこんな場所だからこそ、スリなどの盗難が多発するのです。

バッグの口に手を添えて、体の前面に、体から離さないようにしっかり持って下さい。お財布はレジで支払う直前まで出さないでください。支払いが終わったら、その場でしまって下さい。
こんなに言っても、危険なのです。

それでも盗まれました

自由時間が終わると、ある女性のお客様が貴重品を入れたポーチがバッグにないと言い出しました。一人参加の女性でしたから、たいそう不安そうでした。

スリのイラスト
すでに夕方だったので、翌日現地事務所のスタッフに付き添ってもらい、日本大使館に手続きに行ってもらうことにしました。

この時、「現地スタッフはただのお手伝いではなく、通訳として付き添うので、具体的な金額は判りませんが、半日でも数万円の請求があります。今回は盗まれてしまっていて持ち合わせがないので、帰国してからのお支払いになりますが、ご了承いただけますか?ご納得いただけない場合は、お1人で大使館に行って、延泊になる場合も、ご自身でホテルを探し、帰国便の手配もすることになります」と話しました。

翌日は帰国日だったので、添乗員の私は本体と共に空港へ行かなければならないので、お手伝いができないのです。お客様は「わかりました。お願いします」と返事をし、私は現地事務所に日本人スタッフの手配をお願しました。また、日本大使館に、お客様の名前と、帰国書類の手続きに行くという情報を連絡しておきました。

見つかりました

パスポートのイラスト
翌日朝いちばんでお客様と現地スタッフが大使館に行ったところ、このお客様のパスポートが届けられていたのです。

聞けば、盗まれたと考えられる場所の近くの土産店の方が、日本人のパスポートを見つけたので、大使館に届けてくれたのです。残念ながらお金は無かったそうです。泥棒はお金が目的だったようで、パスポートはポーチに入れたまま捨てたようでした。

それにしても、不幸中の幸いでした。空港に向かっているバスの中で、この連絡をもらい、ツアー本体と一緒に帰れることができることがわかりました。

自然と拍手が

他の参加メンバーの皆様にこのお知らせをしたところ、バスの中は拍手に包まれました。「良かったですね~」皆さま同じ気持ちです。自分でなくても、同じツアーの人が盗難に遭い、一緒に帰れない可能性が高いというのは、良い気持ちはしないものです。

知らん顔の女性のイラスト
空港で本体と合流したお客様と共に、無事全員一緒に帰って来ることができました。空港からの交通費が心配でしたが、別にしまってあった交通系ICカードを使って帰ることはできるということでした。

ところが翌週になり、このツアーの手配担当者から問い合わせが入りました。「お客様が現地スタッフの料金を払わないって言っているんだけど、どういう説明をしましたか?」と。たまたま、大使館ですぐにパスポートが見つかったことで、たいしてお世話になっていないという考えのようです。現地で乗ったタクシー代くらいは「仕方がないから」払うと言っているそうでした。

ひとり参加で、お財布も盗まれているから現地で請求しなかっただけです。現地事情も含めて、かなりの金額が請求されることはお話しした通りです。「私が望んで来てもらったわけではない」と主張しているそうでした。

私はビックリ、そして悲しくなりました。パスポートが見つかって一緒に帰れるという連絡をもらった時に、バスの中で起こった拍手がどんなにステキなものだったでしょう?本人だけが聞いていないから仕方がないのでしょうか?あの時のバスの中で、喜んでくれた人々の気持ちも裏切るような残念な話でした。

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