とんでもお客様⑩水のおばあさん

外国の水道水

水道水が飲める国の一覧地図
海外旅行に出かけて現地で飲む水が心配という方は多いのではないでしょうか?
しかし、国によっては心配なく水道水が飲めるという国もあります。

カナダにツアーで訪れた時のことです。カナダは日本の水道局の人が視察に来る位、安全に水を提供していると言われる国です。一説によると、蛇口からミネラルウォーターが出ているとも言われるそうです。

添乗員としてその話をしたうえでも、心配な方や胃腸が弱いなどの体質により、ミネラルウォーターを購入して飲むことをおすすめしています。

私自身は、ホテルにあるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れるか、お湯を沸かしてお茶を飲むなど、いわゆる生水は飲まないようにしています。胃腸には自信がありますが、どんなに丈夫でも、体調に影響を受けることを避けるためです。仕事で行っているので、自分が体調不良にならないようにしたいからです。

対策する時間はあったはずですが。。。

前日から現地の空港やホテルの売店など、その都度水を購入できる場所の案内はしていたのです。この先しばらく店が無いということも案内済みでした。カナダで山の観光をしていると、数十キロ先まで店がないこともあるのです。

ある高齢の女性が、買えないタイミングになってから、水を買いたいと言ってきました。「この先は店がないのですぐには難しいと、ホテルを出る時にもお知らせしたのですが。今からでは無理ですし、水道水を飲んでも大丈夫ですから」と私が答えると、「運転手さんが持っているでしょ?」との返事。

カナダのミネラルウォーター
そうです。海外に行くと、バスの運転手さんが500mlのペットボトルの水を1ユーロで売ってくれたりするのです。それは、水道水を飲むことを推奨できない国の話で、水道水の飲めるカナダで、ペットボトルの水を用意している運転手さんはまずいません。

すると突然、怒りのスイッチが入ったようでした。「私はね、ミネラルウォーターしか飲まないの!!!」「ですから昨日からずっと買える場所も、タイミングもご案内していましたし、ホテルを出る前に売店で買っていただきたいという話もしましたが。。。」
私にはもちろん、ご自分にも苛立ったのか、収まりません。「私はね、ずっとミネラルウォーターしか飲んでこなかったの!!」と何度も言っています。

生まれた時から?

あまりの剣幕に困りながらも、私は心の中で「突っ込み」を炸裂させていました。このお客様が昭和10年代のお生まれだということです。ずっとミネラルウォーターしか飲んでこなかった?ホントですか?生まれた時からミネラルウォーターしか飲んでいなかったなんてありえません。「戦争中も、終戦直後もミネラルウォーターだったんですか?どこでどうやって買ったんですか?」と、もう少しで言いそうになりました。きっともっと怒らせるでしょうから、グッとこらえましたが。

調べたところ、日本でミネラルウォーターが一般に販売されるようになったのは1980年代のことです。ぺットボトルが一般に普及してからのことだそうです。明治時代に、神戸の居留地の外国人用に販売されているものや、昭和初期にホテルなどの業務用に販売されたのものがあったようですが、これも一般の人が買うものではなかったようです。

怒りに任せて色々言っていましたが、自分で自分を追いつめてしまわないか、振り上げたこぶしの落としどころがなくならないか、心配になりました。

救う神が現れました

バスの中でのこのようなやり取りですから、他の参加者にも全部聞こえています。車内にも緊張感が走っていました。すると、一組のご夫婦が「うちは2本持っていますから1本どうぞ」と言ってくれました。

昼食場所まで行けば、またペットボトルの水は販売していますので、そこで買ってお返ししていただくということで、やっと話が収まりました。

絶対にないと困るなら、なぜ前日からの再三にわたる私のアドバイスを聞いて行動しなかったのでしょう?何度も案内したので、一度も聞いていなかったはずはありません。結局その方はツアーのメンバーに「水のおばあさん」というあだ名で密かに呼ばれることになりました。

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