とんでもお客様⑨お客様は犯罪者

明らかに異質な感じ

サングラスのイラスト
国内の高額ツアーに参加者する方々の中で、そのカップルは明らかに異質な雰囲気でした。

ご主人(別姓での参加のため本当にご夫婦かは不明)は昼間でも、室内に居てもキャップをかぶり、サングラスを取ることはありませんでした。
それだけではない、感覚的に「何かが違う」という印象を漠然と持っていました。

先月もビジネスクラスでヨーロッパに行き、翌月にもビジネスクラスでの海外旅行に申し込んでいるという、景気の良い話をしていました。実は私は同じ方面のビジネスクラスのツアーに添乗することが決まっていたので、「また、お会いできるといいですね~」などと話をしました。

ツアーが終わった翌週、「警察の人が参加したお客様のことで話を聞きたいそうなので、時間を作って下さい」と会社から依頼がありました。この時すぐにあの違和感を思い出して「あの人かな?」と思ってしまったのでした。

聞かれたことは、そのご主人のツアー中の雰囲気、言動、見せられた写真がその人で間違いないか?などでした。前述したようにほとんどの時間、キャップとサングラスを取ることはなかったので、「本人だと思います」という話しかできませんでした。一番驚いたのは、本人であるかどうかは耳が決め手になるということでした。よほど特徴のある耳でないと、さすがに人を見る時に耳の形状を意識することはないと話しました。

翌月のツアーは?

警察の方との面談後は、私が翌月に行くツアーにその方が入っていないかどうか?ということを早速会社に確認しました。捜査の段階で指名手配や逮捕されているわけではないので、旅行会社側から参加を断ることはできないということでした。
警察の方から詳細は教えていただけませんでしたが、何かしらの犯罪で警察が捜査している人とわかった以上、平常心で対応できる自信はありませんでした。
空港のチェックインカウンター

結果的に、私のツアーの参加者ではありませんでした。どの添乗員が担当するのか?聞くことはしませんでした。知ったところでどうにもならないと思いましたし、その添乗員も知らない方がよいと思ったからです。

すっかり忘れて、翌月のビジネスクラスツアーのツアーに行きました。空港で帰りのフライトのチェックイン手続きをしていると、同僚の添乗員が同じフライトで帰ることがわかりました。

聞けば、日本が台風のため予定のフライトがキャンセルになり、帰国が2日遅れてこの日になったとのことでした。「大変だったね」と言いながらも、ベテランの添乗員さんですから心配はしませんでしたし、チェックインが終わったら「一緒にお茶しようね」などと話をしました。

ふと気づくと、あのご夫婦がいました。そうです、同僚添乗員のツアーのお客様としてそこにいたのです。私から「先月はありがとうございました」とご挨拶をしましたが、すぐに私のことを思い出せないようでした。
逮捕された人

ご一緒した国内ツアーの話をしたら「あ~、あの時の」思い出していただいたようでした。
同僚の添乗員に「問題はなかった?」と聞いてみましたが、幸い問題はなく大丈夫だったとのことでした。

ニュースで知った逮捕

この再会から半年以上たったある日、家でテレビをつけたまま用事をしていたら、あのご主人の名前が聞こえてきました。テレビの画面には警察官に連行される犯人の映像がありました。その日は各局のニュースをほとんど視たと行って良いでしょう。

一度でも言葉を交わし、数日間ご一緒した方が犯罪で逮捕され、テレビでその映像を視るのは不思議な感覚でした。今でも時折検索して、裁判の行方を確認しています。

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