パスポートを入れていたのは?
「添乗員さん、主人がパスポートがないって言うんだけど。。。」
ご主人に改めて事情を聴くと、昼食場所のレストランのトイレに置いてきたようだ、とのこと。
なぜ、トイレでパスポートを置いてくるのかと、理解に苦しみましたが、理由を聞いて納得しました。ウエストポーチに貴重品を入れていたが、トイレの時に邪魔だったので、外してトイレの棚に置いたというのです。
何のためのウエストポーチかわからないですが、実はこういう方は意外に多いのです。
すぐに昼食レストランに連絡し、トイレの確認をしていただいたところ、ウエストポーチは見つかりました。パスポートもお財布も無事でした。
どうやって受け取るか?
現地事務所に相談したところ、次のような提案となりました。レストランにお願いし、とにかく早い方法で送ってもらう。帰国は3日後なので、何とかなりそうだとのことでした。
ホテルに送っていただく方が良いようにも思いますが、物がモノですので、行き違いが起きないよう、現地事務所に送ってもらうことになりました。
受け取ったらすぐに現地スタッフが添乗員に連絡し、受け渡しをするということで話がまとまりました。帰国までは大都市とその周辺での観光でしたので、すでに大きな移動はないことが幸いしました。
その人は校長先生
受け取りが100%確実にできるかどうかはわかりませんでしたが、「皆が協力して、出来る限りのことはやってみますので」と話したところ、ご本人がさめざめと涙を流して「ありがとう、ありがとう」頭を下げてくれました。
まだ、一緒に帰れるかはわかりませんが、「日本人の現地スタッフもいますので、一生懸命お手伝いします」とお話しをしました。本人は夕食ものどを通らなかった様子でしたが、その日はだいぶ疲れたのか、早めに就寝したようでした。
私がホテルの部屋に入った頃を見計らって、奥様が訪ねてきました。ご主人が泣いたのには、大きな理由がひとつあるというのです。
「主人はね、定年前は中学校で校長だったの」と。
長年教師として指導し、校長になり多くの生徒を育ててきました。校長として、生徒に色々と言ってきた自分がしてしまったこと、多くの人に迷惑をかけている自分にショックを受けているというのです。
きっと真面目で几帳面な方なのでしょう。大きな失敗や、人に迷惑をかけることをしない人生を歩んできたのに、今の自分の状況で自己嫌悪に陥っているのでしょう。安易に慰めてもなかなか自信を取り戻すのは難しいと思いました。
ご本人のプライドもあると思いましたので、私は奥様からの話は聞かなかったことにしました。
帰国日の朝、現地スタッフから連絡があり、パスポートは無事ご本人にお渡しすることができ、一緒に帰国することができました。
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