猿之助の身体能力とその心

初めての義経千本桜

市川猿之助
長く歌舞伎を見ていますが、最初にファンになったのは「孝・玉コンビ」でした。
その後、勘九郎ちゃん(後に勘三郎)の芝居はよく観に行きましたが、猿之助(現在の猿翁)のスーパー歌舞伎というものにあまり興味が湧きませんでした。そのため、いわゆる「猿之助スーパー歌舞伎」を見たことがありませんでした。

早変わりでエキサイティングな舞台、宙乗りなどの工夫で魅せる歌舞伎ということは知ってはいても、わざわざ高いチケット代を支払う余裕がなかったことも縁がなかった理由のひとつです。

今回、友人から「猿之助が見たい」というリクエストがあり、初めて「義経千本桜」を見に行きました。
仁左衛門も玉三郎も出ていない歌舞伎を見に行くのは久しぶりでした。

身体能力のすばらしさだけでない魅力

次々に展開される早変わりに驚きながら、猿之助の身体能力とバランス感覚の高さに驚嘆しました。現在46歳。日々の努力はどれほどのものだろうと考えただけで、頭が下がる思いがしました。

そして何よりも満喫したことは、猿之助の声、表情、全身で表す役柄の感情でした。早変わりなどの展開に目が奪われてしまいがちですが、細やかな心理描写の巧みさに感心しきりでした。

亀治郎時代から彼の歌舞伎を見てはいましたが、今回改めて猿之助としてのすばらしさを堪能しました。実は、以前から感心していたことがあります。彼の心の広さです。
それは。。。

猿之助襲名の時に。。。

2012年に猿之助襲名の時のことです。同時に従兄の俳優・香川照之氏が、歌舞伎界に入ることになり、市川中車を襲名することになったのです。

香川照之と先代の猿之助とは実の親子でありながら、離婚により長く断絶状態にありました。俳優として名前が売れてからも、猿之助が香川照之を受け入れることがなかったようです。

ですが、香川照之が年老いて体の自由が利かなくなった猿翁を引取り、更に歌舞伎に挑戦することになったのです。親子の確執と和解のストーリーは格好のマスコミの題材でした。同時に襲名はしたものの、取り上げられたのは猿之助襲名よりも、中車と猿翁の話題ばかりでした。

他人事ながら私はモヤモヤしました。ビッグネームは猿之助でしょ?そんな気持ちでした。

その数年前、猿之助が初めて大河ドラマに出た時には、すでにテレビドラマで活躍していた香川照之が不慣れな亀治郎を盛り立てたという話もあります。本気で歌舞伎に向かいあうことになった中車の、血のにじむような努力を誰よりも知っているのも猿之助なのでしょう。
お互いに感謝こそあれ、ジェラシーはないということでしょうか。

猿之助のすばらしさは、歌舞伎役者として、人としての両面にあります。
今後もますます猿之助の素晴らしい舞台を見ていきたいと思います。

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