兼高かおるさんのしなやかな威厳

兼高かおる氏の晩年の写真
高額のツアー添乗に行く時は新幹線もグリーン車やグランクラスを利用します。車内で大物政治家や有名人と遭遇することも良くあります。
旅番組で活躍されていた阿藤快さんは、お会いした飛行機と新幹線で2回とも隣の席でした。
大好きな芸人さん、サンドウィッチマンの伊達さんは新幹線で3回お見かけしました。

色々な方を見かける機会がありましたが、誰よりも一番緊張したのは、兼高かおるさんが新幹線の隣の席にいらっしゃった時です。
兼高かおる氏の写真

兼高かおる(1928年~2019年/90歳で死去)
TVの旅番組の草分け「兼高かおる 世界の旅」で出演、ナレーター、プロデューサー、ディレクターを兼務し、1990年までの30年に及ぶ長寿番組を支え、海外旅行が珍しかった時代から世界各地を紹介し、数々の旅に関する記録も打ち立ててきた。

私自身はその番組を見たことはありませんでしたが、後に添乗員となってからは、著書を
読んだり、「旅行博」などの大きなイベント会場で、来賓として出席している姿を遠くか
らチラッと拝見したことがありました。

兼高かおる氏の晩年の写真
その日は国内添乗で盛岡に向かっていました。ツアーのお客様に、グリーン車のブランケットを配ったり、トイレの位置や到着時間を案内した後、自分の席に行きました。

列車内としては少し大きめの声で説明していたため、何か書き物をしていた隣の席のご婦人に「お騒がせしました」と声をかけました。

そのとたん、「この人はフツーじゃない」と感じました。ご高齢ながら背筋がピンとし、身に付けているものが上品でセンスの良いもの。何よりご本人の醸し出す凛とした雰囲気に普通ではないものを感じました。

兼高かおる氏とサルバドール・ダリとの写真
「誰?」と考え始め、隣の人の顔を見るのが難
しいということに気づきました。覗き込んだら
失礼だし。。。そうだ、トイレに行こう!帰っ
た時に正面から顔を見れば判るかも。

結論「兼高さんだ!」。どうしよう?話したい
けど邪魔になりたくない。。。

そんな時、チャンスが。兼高さんがペンを落と
したのです。新幹線のテーブルを使用している時
に足元に落ちたものを拾うのは、結構大変です。さっと拾ってお渡しすると「ありがとう」
と。「いえ」やっとできた返事がこれだけ。

ドキドキが止まらないまま、仙台到着が近づいてきました。兼高さんが下車の準備を始め
ました。席を立つタイミングで「頑張ってくださいね」と声をかけていただきました。
その時の包み込むような笑顔。ただただ、嬉しかったです。

2019年、兼高かおるさんの訃報に接し、あの時のことを改めて思い返しました。

資産家の家に生まれ、戦後間もない時にアメリカに留学し、TV番組で活躍し、旅に関する著書を数多く出版。
羨ましいかぎりの人生のようですが、きっと女性であるがゆえに、開拓者であるがゆえに苦労も人一倍だったでしょう。
凛として、威厳のある姿。でも、包み込むような笑顔で声をかけていただいたこと。

難しいことはわかっていても、兼高かおるさんは目指すべき素敵な先輩として、私の胸の中に生き続けています。

コメント